妊娠できない不妊症に対して、妊娠はするが、流産や死産を繰り返して、赤ちゃんが得られない場合を不育症といいます。
すべての妊娠の約15%は自然流産(100人が妊娠すれば、15人は流産となります)し、自然流産の原因の大半(50〜70%)は胎児の染色体異常によるといわれております。

連続して2回流産を繰り返すことを反復流産、連続して3回以上の流産を繰り返すことを習慣流産といわれ、習慣流産の頻度はすべての妊娠の1〜2%と報告されております。それまでの流産の回数や、女性の年齢にともなって次回に流産する可能性は高くなります。

1回の流産ですぐに不育症と結びつける必要はなく、次には元気な赤ちゃんが得られる場合がほとんどですが、流産を繰り返す習慣流産や場合によっては反復流産では、偶然の流産の繰り返しと考えるより、何か原因がある可能性もあります。早めに原因を検索することをお勧めします。

不育症の半数はいまだ原因不明ですが、最近、産婦人科領域において、この分野は注目され、研究や治療の報告が数多くされてきており、原因がわかってきたものもあり、それに伴い治療法も大きく変わってきました。

待望の妊娠から、流産という悲しみを繰り返すことのないためにも、原因を探ってみることは大事なことですし、治療によって乗り越えられる可能性も十分ありますので一度ご相談にきていただけたらと思います。

 

 

1. 不育症とは

日本不育症学会は、「流産あるいは死産が2回以上ある状態」を不育症の定義として提言しています。
この際、既にお子さんがいるかどうかは問われず、流産や死産が連続していなくてもよいとされています。

3回以上連続する流産を「習慣流産」、2回以上連続する流産を「反復流産」と言い、不育症に含まれます。

「生化学的妊娠」とは「妊娠反応は陽性となったが、超音波検査で子宮内に胎嚢が確認出来ず、月経様の出血が起こり、妊娠が自然に終結する(妊娠反応が消失する)場合で、流産回数に含まれず、生化学的妊娠を反復しても不育症とは言いません。

※ 自然妊娠における生化学的妊娠の頻度は22%であったとの報告があります。
※ 反復生化学的妊娠においても通常の不育症と同等の不育症リスク因子が検出されたとの報告もあり、生化学的妊娠を流産回数に含めるか、反復生化学的妊娠を不育症に含めるかは今後の検討課題になるものと考えられます。

 

2. 不育症の頻度

  • 自然妊娠の流産は10~15%の頻度で起こり、妊娠女性の38%が流産を経験していると言われています。
  • 女性の年齢とともに流産率は上昇します。(30歳未満で10%、30~34歳で13%、35~39歳で21%、40~44歳で44%と報告され、胚の染色体異常(胎児染色体異常)の増加が主な原因と考えられています)
  • 2回以上の流産を経験した女性は4.2%、3回以上では0.88%と報告されています。

自然妊娠での初回流産はまれなことではなく、赤ちゃんの胚の染色体異常(胎児染色体異常)での流産(偶発的流産)がほとんどで、この流産には予防や治療は困難です。

一方、2回以上の流産を繰り返す場合には、偶発的流産が繰り返されることもありますが、ご夫婦に不育症のリスク因子が隠されていることがあり、検査結果によっては流産を乗り越えられる治療が見つかる可能性があります。

 

3. 不育症のリスク因子とその頻度

不育症の主なリスク因子は4つあり、「抗リン脂質抗体症候群」、「子宮形態異常」、「夫婦のどちらかの染色体異常」、「胎児染色体異常」です。

偶発的流産(胎児染色体異常)・リスク因子不明が最も頻度が高く、全体の65.2%を占めています。(図1)

胎児染色体検査がこれまで保険適用がなく検査されていなかったため、これらは「原因不明」とされていますが、実際は胎児染色体異常の繰り返しが原因も多数あると考えられています。

 

図1

Morita K, et al. J Obstet Gynecol 2019

 

抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体が、胎盤に血栓を形成や胎盤の細胞に直接障害を与えることで、胎盤の梗塞や胎盤機能不全を起こし、流産や死産、妊娠高血圧症候群などを引き起こすと考えられています。

以下の方は抗リン脂質抗体を検査されることをお勧めします。

  • 反復流産、習慣流産の方
  • 妊娠10週以降の原因不明の胎児死亡の既往
  • 妊娠34週未満の早産(子癇、妊娠高血圧症候群または胎盤機能不全によるもの)の既往
  • 妊娠合併症(胎児発育不全 妊娠高血圧症候群 常位胎盤早期剥離 HELLP症候群 血栓症)の既往
  • 膠原病(主に全身性エリテマトーデス)合併
  • 梅毒反応の生物学的偽陽性
  • 血小板減少や、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長を認めた場合

血栓性素因(凝固因子)

血栓性素因(凝固因子)と不育症との関連はまだ不明なことが多く、明らかになったとは言えませんが、抗リン脂質抗体症候群に準じた治療により生児獲得率が上昇したとの報告があります。

血栓性素因(凝固因子)の検査は、不育症検査の選択的検査とされています。

子宮形態異常

子宮形態異常の中で、最も不育症と関連があるのは中隔子宮です。

中隔子宮とは、子宮内腔を左右に2分してしまう中隔が存在する子宮で、胚が正常組織ではない中隔の側に着床すると流産になる可能性が考えられています。

不育症の既往がある中隔子宮症例には子宮鏡下子宮中隔切除術が選択肢となります。

夫婦染色体構造異常

ご夫婦のどちらかに染色体異常があると流産を繰り返すことがあります。

染色体異常が見つかっても、染色体そのものを治すことはできませんが、正常な配偶子(精子や卵子)がつくられる可能性は十分にあります。

一般のご夫婦より、流産回数は多いですが、最終的に生児が得られる確率は一般のご夫婦とかわりません。

流産回避のため、着床前診断(PGT-SR)が選択肢となります。

胎児染色体異常

「偶発的流産」の70~80%は胎児染色体異常によるものと言われています。

女性の年齢とともに胎児染色体異常の頻度は増加し、それにより流産率が20~30歳では10~20%であるのに対して、40歳以上では40%以上に上昇します。

それでも、この「偶発的流産」が「反復」して起こることは、非常にまれなことと考えられていました。

「偶発的流産」で胎児染色体異常での70%に対して、「反復流産」でも50%あったと報告され、「反復流産」でも胎児染色体異常が重要な原因の一つであることがわかりましたが、50%は胎児染色体正常での流産であり、「反復流産」では胎児染色体正常での流産が多いとも報告されています。

流産を繰り返すほど、出産率と胎児染色体異常は減少すること、胎児染色体異常での流産では、胎児正常染色体の流産に比べ、次回妊娠の成功率が2.6倍あったことが報告されています。

※ Sugiura -Ogasawara M ,et.alらは、流産絨毛染色体検査が行われた場合の不育症リスク因子の頻度は、41%に胎児染色体異常が認められ、胎児染色体正常の真の原因不明は25%になることを報告しています。(図2)

 

図2

Sugiura-Ogasawara M, et al. Hum Reprod 2012

 

2022年4月より、過去に1回以上の流産のある方に流産絨毛染色体検査(G分染法)が保険適用となりました。

  • 染色体が正常であった場合は、今回の流産が母体側に原因がある可能性も考えられるため、母体側のリスク因子の検査が必要となります。
  • 染色体の数に異常があった場合は、赤ちゃん側の偶発的流産と考えられるので、母体側の検査は不要で、次回妊娠に期待します。
  • 染色体に構造異常があった場合は、ご夫婦のどちらかに染色体均衡型転座があることも考えられ、ご相談させていただき今後の妊娠のためにご夫婦の染色体検査をお勧めします。

※ 初回流産での検査は保険適用外(自費)になります。

甲状腺機能、糖尿病

甲状腺機能の亢進または低下は、ともに不妊症、不育症や周産期合併症(早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離など)との関連が言われています。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇しているが、甲状腺ホルモン(fT4)が正常の状態である潜在性甲状腺機能低下症で、特に甲状腺自己抗体(TPO抗体など)陽性では流産や反復流産のリスクが上昇することが報告されています。

妊娠前の血糖管理が不良の糖尿病では、流産や死産、胎児染色体異常の増加や周産期合併症(早産、妊娠高血圧症候群、網膜症や腎症など)のリスクが上昇します。

甲状腺機能、糖尿病は妊娠前から妊娠中にかけて良好な状態に管理することが重要です。

 

4. 不育症の検査

不育症の4つの主なリスク因子と内分泌異常の「甲状腺機能異常、糖尿病」を加えてリスク因子の通常の検査としています。

リスク因子 検査項目 頻度 不育症との関連 治療
子宮形態異常 ・超音波検査
・子宮卵管造影検査(HSG)
・子宮鏡検査 など
7.9% 中隔子宮が不育症に最も関連あり。 子宮鏡下中隔切除術
甲状腺機能異常
(低下・亢進)
糖尿病
・甲状腺機能 FT4  TSH 抗TPO抗体
・糖尿病検査 空腹時血糖値 HbA1c
9.5% 甲状腺機能異常や糖尿病は流産のリスクが高くなる。 適切な治療・管理
抗リン脂質抗体症候群 ・ループスアンチコアグラント
・抗カルジオリピンβ2GP1抗体
・抗カルジオリピンIgG抗体
・抗カルジオリピンIgM抗体
・抗PEIgG抗体[保険収載未] 
8.7% 胎盤の血栓症が血流障害を起こす。 低用量アスピリン+ヘパリン併用療法
低用量アスピリン単独療法  
血栓性素因
(凝固因子)
・プロテインC活性
・プロテインS活性
・第Ⅻ因子活性
・PT
・APTT 
4.3%
7.6%
胎盤形成が障害される。 低用量アスピリン単独療法
夫婦染色体構造異常 ・染色体G分染法 3.7% カップルのどちらかに染色体構造異常がある。
均衡型転座 (相互転座とロバートソン型転座)が最も多い。
遺伝カウンセリング
着床前診断
偶発的流産
(胎児染色体異常)

リスク因子不明
・絨毛染色体G分染法など 65.2% 染色体正常;
母体側のリスク因子検査必要

染色体数異常;
母体側のリスク因子検査不要

染色体構造異常;
夫婦染色体検査要
遺伝カウンセリング
着床前診断
テンダー・ラビング・ケア/支持的ケア

 

5. 不育症の治療

不育症治療

原因不明不育症(胎児染色体数異常と正常流産を含めて)では確立された治療法はありませんが既往流産2回であれば80%3回で70%4回で60%5回でも50%の方が生児獲得できることが示されています。

不育症の関連リンク

 

6. 不育症の新しい検査

不育症の新しい検査 ネオセルフ抗体について

ネオセルフ抗体とは

ネオセルフ抗体は子宮内膜の血管に存在し、血栓症の原因となる新たに発見された自己抗体で、不妊症や不育症、また最近では妊娠高血圧症候群や胎児発育不全などへの関連も報告されています。

不妊症とネオセルフ抗体

不妊症の方の約20%にネオセルフ抗体が陽性であった。

子宮内膜症がある不妊症の方や、体外受精での反復着床不全の方の約30%にネオセルフ抗体が陽性であった。

不育症とネオセルフ抗体

不育症の方の23%、さらにリスク因子不明の不育症の方の20%にネオセルフ抗体が陽性で、また抗リン脂質抗体検査が陰性であった女性でネオセルフ抗体の陽性が多く認められることなどから、不育症の新たなリスク因子である可能性が言われています。

ネオセルフ抗体陽性での治療

ネオセルフ抗体は血栓症を来す可能性があり、抗リン脂質抗体症候群と同様に抗血小板療法 (低用量アスピリン療法) や抗凝固療法 (ヘパリン療法) で妊娠、生児獲得に有効である可能性があります。

検査対象

通常の抗リン脂質抗体の検査が陰性の不育症の方や、反復着床不全の方。

検査費用 

33,000円(税別) 保険適用外(自費)

※ 検査結果が出るまで2週間程度かかります。

 

ネオセルフ抗体の関連リンク